No cross no crown

以前、私はアメリカ海軍退役軍人という立派な肩書を持つ方の話を聞くという僥倖に恵まれたのです。
そしてその時の話題はアメリカ軍はゼロ戦はジークで何とかいう攻撃機はフランシスと呼んだのですよと、つまり敵戦闘機は男性名で攻撃機は女性名といった区分をしていたそうです。
私は内心アメリカ人とはよくわからん習性があるんだなとぼんやり考えていたのです。
そしてその時私の隣にいた女性が発言したのです、「ふーん、じゃあ”カガ”って誰の名前なんですかぁ?」
静まり返ったその場で私は舌を巻く思いだったのです、天下のアメリカ海軍を沈黙させるとは!チャーチル首相の言う奇襲とタイミングを具現化するこの人は只者では無いなと。

以上はただの思い出話なのですが、思い出したのに理由があるのです。
実は私、夏が到来する前に暑さ対策を考えていたのです、そこで労働環境の良すぎる当店で辛抱する為に騎士道三原則を導入したのです。すなわち受容、容認、改善です、ただ残念な事に大自然の猛威の前にはそれらの気合は蒸発してしまったようでありまして日当たりの良すぎる店の中で水分補給するというサルにも劣る工夫の無い毎日を過ごしていたのです。つまり騎士道精神では役不足だったのです、そこで熱中症対策の為に西洋古典三元徳を新たに導入したのです。
すなわち正義、思慮分別、節制、不屈の精神です、余談ではあるのですが昔の私の精神にはそれら徳目の含有量は極めて微量だったのかも知れませんが、現在においては精神的支柱に据えているという事実は私も進化したと言って良いでしょう。ついでに言えば若かりし時は上記の徳目を大量に保持していた人々が年齢を重ねた上で何かの拍子に流出さしてしまい紙面や画面を賑わすという出来事は社会学の題材に成り得ると思われます、個人的に精神的退化のモデルケースとして適切なのは、愛や夢そして平和の尊さ等を歌い上げていた歌謡グループが何故か内紛を勃発させ空中分解したという出来事が分かりやすいと思われます。さて、これらの要素も抜本的な対策にはならなかったようでありまして耐え難い暑さの中で過ごしていたのです。
よく考えてみたところ思想や信条で大自然に対峙するという方法論がそもそもの間違いであり物理的装置を購入すべきであるとは十分に頭では理解しているのですが躊躇していたのです。
理由としては、もうすぐ涼しい季節になると今までずっと耐え抜いてきた季節の一部の為に購入したという出来事は後程心と懐に重くのしかかる可能性が無いとは言えないからです。似たような事例として、私はリード100というスクーターのスターターギヤプーラーという特殊工具を所有しているのですがとても高価だった割には多分過去十年で一回しか使っていないのです。
従ってこれから季節は進み店内で南極観測隊並みに防寒服を着込み歯をカチカチ言わせている時に立派なクーラーを眺めると深いため息と共にプロジェクトに失敗し更迭されそして解雇されたビジネスパーソンのような釈然としない気持ちを抱えて生きていくというルーザー気分に陥るのではないかと恐れているのです。

そこで別の視点を得る為に私が起こした行動は、リフレッシュする為に休暇を取るだったのです。
実に正月休み以来の休暇です。最近は働き方改革という政府主導の休暇の取り方があるそうなのですが仕事密度の薄い私は年間二回の休暇で最高の思い出を作る方が私好みの方針なのです。経済的にも・・

そして今回の休暇の目標は普段店に引きこもっている私にはおよそ見ることの出来ない美しい景色や珍しい物を見たりする事そして言葉の通じ辛い地域である事の二点なのです。
結論から言えば成功判定を下しても良いでしょう。特に前半は素晴らしかったのです、何処に行くにも最小限の荷物しか持たないので(無いものは持っていけないのです)ホテルのフロントは何故か新種のセレブと勘違いしたようでありまして望外の湖に面した一戸建てであるプール付きの御殿のような部屋に宿泊する事になったのです。私はこれを好機と捉え勘違いを補強する為にロビーの門番の青年がコンバットブーツを履いているのを発見したので「Thank you sergeant.」(ご苦労、軍曹}と言いながら煙草をひと箱進呈したのです、おかげさまで滞在中のお出迎えは私だけ軍隊式の敬礼という珍事になったのです、そして待遇のよいこと。
全力ではしゃいだ後ビールを飲みながらテレビを見るとNHK放送があることに気が付いたのです、別に見なかったのですが{アメリカ製のバカバカしいアニメが面白かったので)視聴料の集金とか結構大変だろうなぁとか考えはしたのです。もっとも外国人ならツケは電波を受信するアンテナに回せと言うだろうなとも思ったのです。

そこで考えたのです、日本の国営放送を利用して日本の素晴らしい部分のみを取り上げて美しい映像で飾り付けるという対外謀略放送を作成し観光客を誘致するというのが良いでしょう。ただ企画制作者にはかなりの力量が要求されるはずです。何故ならば家族、職場、社会、政治に対しての怨嗟に満ちた不平不満の声を聴かない日は無いうえにどうやら君たちには休息が必要だと政府が国民を諭す事態になっている日本に呼び込む映像作品であるからです。そして題材として適当な物は何が良いだろうか、自然は全世界に対しての訴求力は比較的に足りないと思われます、もっともこれは日本政府の責任では無く国土が狭いのが原因なのです、細々とした美しい景色等はそれなりに存在するようですが私の知る限り圧倒的な大自然は世界的に見れば残念ながらと言ったところでしょう(いつの日かパタゴニアを歩きたいのです)。小泉八雲やイザベラ・バードは日本をとても美しい自然に満ちていると記述しているという反論もあるでしょうが物のわかった教養のある欧米人はこの国は未開であるという角の立つ言い方はせずに美しい国と表現するのです。例えば私の居住地域にやって来た大都会出身の人なら当地域の賞賛すべき点を探すのに苦慮の上、割と近所の巨大なショッピングモールの駐車場の広大さを指摘し感心するでしょう、そしてそれを額面通りに誉め言葉と受けるのはやはり間違いでありましてあと数百年は発展の余地がありますねと言われていると捉えるべきなのです。
自然は却下なので次に取り上げるのは日本の文化なら間違いはないでしょう。長い歴史を持つ宗教施設や文化活動等は大いに発信するべきかと思われます。
と、ここまで考えたところで国営放送がそれらのプロパガンダ放送を制作していない訳が無いのでは、いや、きっとあるはずと勝手に確信したのです。

そこで考案した策なのです、滞在先はとてもオートバイの多い地域だったのです。私はこの国でも人の役にたてるなと考えていたのです。つまり私のように係累が少なくてしかもどこでも自活出来る人物を世界にばらまいて日本を好意的に捉える人達を増やすという作戦です。放し飼いの宣撫要員といったところでしょうか、私の場合は現地の人たちのオートバイを修理して信頼を得る可能性は低くはないと言っても良いでしょう。そして長い目でみれば好日的な住民を増やすのはいつの日にか国益にかなうと思われます、観光客も増えるでしょう。
それに私個人にとっても新たなチャレンジは好ましいのです、多少の才覚や資金のある人なら駆け足で登れる丘を伏せた状態で上だけを見つめてじりじりと這い上がっていくと稜線の向こうに大きな山塊が見えて来たといった感じなのです。さすがに今までのような独力では無理があるな・・・
政府若しくは大企業が私を現地調査兼宣撫要員として何処かの国に派遣するという提案は如何でしょう?必要な物は店舗と材料と三年分の活動費くらいでしょう、それくらい時間が経てば顧客や取引先等を確立して後は無補給で自転可能だと思われます。見返りは現地の基礎情報を写真付きで発信するのと日本の良い所を宣伝し未来の観光客を発掘するといった所です。保護する責任もないですし使い捨てが出来るという素敵な資質もあるのです。

とかなんとか考えていたら大変な後半があったのですが不幸話など聞くに堪えないものだと思われるので割愛です、それ以上に聞くに堪えないものは危急時における意思決定と上手く事が進んだ自慢話くらいですか

トラブルが発生して途中下車?した国に空軍博物館があったので気晴らしに見学に行ったのです。
そこで見かけた航空機がとてもイカしていたのです。これは日本でも導入するべきであるとその時思ったのです。
何故なら最近日本政府はアメリカ製の高価な航空機を大量に発注したそうなのですがバイク屋目線で見るとその取引は暴走族の先輩後輩といった感じに見えてしまうのです・・
「おい!うちとこの飛行機買えや、速いし性能いいぞぅそれに自分のことやから特別に安ぅしたるがな、ああでも無理に買えとは言わんぞ、でも分かってるやろな?!」
お金持ちで良い家の子である後輩が他所で買うという選択は無いと思えるのです。
これが対等な関係ならば「考えとくは、でも他のディーラーも覗きに行くで、もし他所で買ったとしても悪ぅ思わんといてや」と言えると思われます。
国際関係とは複雑なようで案外単純なものなのかな?と考えながら私は言ったのです
「この飛行機カッコいいし見た感じ性能も良さそうだから日本で採用したらいいと思うけどどう思う?」と同意を求めた所
ここでようやく冒頭の只者では無い人の登場です、少し考え込んでから返事してくれたのです。
「ここは博物館だから・・型が古いと思うよ、ほら、例えば私があなたにセルシオに乗って欲しいって言ったら買って乗る?」

なるほどつまりグリペン戦闘機はセルシオである、確かに素晴らしい設計だが今更だな
それによく考えてみたらどこの国製であれ新型を購入すればパイロットや整備士の教材に訓練費用、メンテナンスの為の特殊工具に治具や器具等結構な出費だと思われます。やはりアメリカ製にしておいた方が後々面倒にならないのかも知れません。なにしろ様々な機材を揃えたら補修部品や工具の扱いが煩雑になりコストも上昇するので出来る限り統一した方が結果的にお得ですというセールストークに同意したとも言えるでしょう。

今回の休暇で私が得た物は、自分の弱点を知った事、対人コミュニケーションには言語が一番のウエイトを占めているのに私はサッパリである。良い点は弱点を知ればそれを改善すれば良いだけなので大いなる前進であると言って良いでしょう。もっとも日本語ですら怪しい私にそれが可能かどうかという問題点もあるのですが。
そしてもう一つ分かった事は、日本の防衛関係者が暴走族の立場の弱い後輩等では無く深い思慮と練り上げた知恵の上にアメリカ製の新型にしたという事を理解したのです、そして自分の不明を恥じたという所です。

 

 

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